シニア男子フリーは白熱した戦いとなりました。
優勝した友野一希選手(同志社大学)と2位の山本草太選手(中京大学)。ともに2種類の4回転を入れた構成で勝負に挑みます。
友野選手は冒頭の4回転トゥループ+トリプルトゥループを鮮やかに決めます。
2.61の加点がつく出来でした。つづく4回転サルコウもお見事。こちらも加点1.70がつく出来栄えです。
キレのあるステップ、鬼気迫るラストのコレオシークエンス、ミーシャ・ジーさん振り付けの映画『ムーラン・ルージュ』の世界をドラマチックに体現していました。
演技を終え、バックステージに戻ってきたときには満身創痍の様子。
「力尽きた~」とベンチに倒れこんでいました。
それほどまでにハードなプログラムだったのでしょう。
息を整え、囲み取材では落ち着いて話を始めました。
―優勝おめでとうございます。今の気持ちをお聞かせください。
友野「今年も家族がすき焼きセットを用意して待っているので、ちゃんと持って帰れて良かったなと思います。試合の内容については…、今回は集中力だけで乗り切ったかなという感じで、まだまだ後半の練習はまったく足りてなかったですし、コンビネーションも全部使えてないので。このままシーズンを迎えると話にならないなと思うので。でも4回転だけに絞ると去年よりは少しは成長したのかなと思いますし。集中力の持って行き方は、まだ初戦なのでわからないんですけど、練習をした上で、試合で挑んで集中をどう持って行くか。昨シーズンを踏まえながら少しずつ着実に成長していけているのではないかと思います」
―去年よりも確実に進化した点は?
友野「確実に4回転と今日は全然、疲れて動けていなかったんですが、フリーレッグとか少しプログラムに関しては大きく見えるかなと自分でも思っていますし、まわりからもフリーレッグはきれいになったねと言ってもらえるようにはなったので。今日はそこまで神経は行き届いていなかったんですけど、ショートはしっかりできたかなと。体力の方はまだまだなんですけど、細かい部分と練習してきたことはステップ、スピンはちょっとバテて、できなかったですけど、技術としてはどんどんあがっているので、あとはプログラムに試合で入らないと意味がないので、試合で体力に余裕を持って滑れるようにエレメンツとひとつひとつの要素をこなせるようにしていかないとならないですし、練習してきたことを試合で出せるようにこの先、プログラムの練習を重ねていかないといけないなと思います」
―ミーシャ・ジーさんが振り付けしたこのプログラムは曲調が変わるところがあって、難しいところがあると思います。
友野「強弱ははっきりしていて、僕的には演じやすいですし、見ている側もすごい入り込みやすいかなと思うので。最初は“ん?”と思ったんですけど、すごい聞いているうちに僕はこの編集を気に入っていて、最後はしっかり盛り上がって終わるので、そこをバテないようにしっかり体力面を強化したいと思います」
―ショート、フリーの仕上がりは?
友野「まだ冗談抜きで15%ぐらいです。このプログラムをやりきることで精一杯っていうだけで大問題なので、この時期はまだまだ仕上がってないのが毎年そうなんですけど、昨シーズンに比べるとまだ、全体の完成度としてはまだ国際試合に出られるような状態ではないので。練習を濃くしていかないといけないなと思います」
―新しいシーズンに向けて意気込みを。
友野「自分が目標としていた4回転トゥループは初めて試合で、(首をかしげて)あれ? 飛ぶことができたので、そこは素直に飛んだ瞬間はうれしかったですし、集中して試合に挑めたのは、初戦にしてはいい収穫だなと思いましたし、結果的に良いスタートが切れたんじゃないかなと思います。草太は4回転3本、フリーで入れているので、僕はまだまだ3本はわかりませんが、練習していくうちに4回転を増やしていければいいなと思います。彼も次の試合ではしっかりとやってくると思うので、負けられないという気持ちで、僕としては上に目を向けて、練習していかないといけないなと今回の試合で思いました」
―今回のシーズンの具体的な目標は?
友野「昨シーズン果たせなかったもの。グランプリファイナルに出て、世界選手権出て、小さなメダルじゃなくて、もっと大きなメダルを取るというのが僕の中の最終的な目標ですし、正直まだ届く実力ではないで、それを目標に1日1日目標を立てて、ひとつひとつクリアしていくことが今シーズンの目標で、昨シーズン悔しかったことをしっかりはらすのが目標です」
2位の山本草太選手は冒頭の4回転サルコウがダブルになるミスがありました。そのあとの4回転トゥループ+トリプルトゥループのコンビネーション、単独の4回転トゥループは成功。
持前の美しいスケーティングで観客をひきつけます。
長い手足を生かした壮大なフリーのプログラムはパスカーレ・カメレンゴさん振り付けの「In This Shirt」。
フィニッシュを決める山本選手。
フリー後、汗だくで囲み取材に応じました。
―ケガがあって、それを乗り越えて複数の4回転が飛べるようになってきたことについて。現在の状態はどうですか?
山本「最近では大きなけがはないんですが、ちょこちょこ傷めたりはしますが、休んだら、練習できる程度ですし、しっかり練習できているほうなので、うーん、頑張ります」
―このフリーで伝えたいことは?
山本「強化合宿もやってみて、いろんな方々にアドバイスをして頂いて。最後のステップでしっかりと盛り上げるような曲調でもありますし、そういうステップを組んでもらっていて、苦しさだったり、そういうものを表現できたらいいんじゃないとアドバイスを頂いたので、そういうふう表現できたらいいなと思います。体力が、いつもより、今日は、そういうふうに表現できるものではなかったので、そういうところも強化していきたいと思います」
―現在の仕上がり具合は?
山本「うーん、そうですね。前はやっぱり結局、今は4回転が難しいんですよ。それがなかった分、スケーティングとスピンに気を配れていた。自分が上手だったというよりは、簡単な構成だったからいい演技ができたと思っています。こうやってジャンプを入れて、難しいものをやって、いい演技ができないと自分の力ではないかと思っています。今、4回転は3本なので、その構成でスピンとかステップをしっかりやっていきたいと思っています」
―練習していて、この調子でやればチャレンジャーシリーズぐらいまでには仕上がりそうですか?
山本「こうやってサマーカップでしっかり感覚を確かめられたので、この経験を踏まえて、次からはこんな演技はできないと思っているので、しっかり戦うために頑張ります」
流れる汗を何度もジャンパーで拭っています。それだけ激しい戦いだったことを物語っていました。
3位の山隈太一朗選手(明治大学)は冒頭のサルコウが抜けてしまいましたが、次のトリプルアクセル+ダブルトゥループを決め、会場を沸かせました。
ミッシェル・ポルナレフの曲に合わせ、177cmの高身長を生かしたスケール感のあるプログラムを披露しました。振り付けは宮本賢二さんです。
山隈選手は今年、明治大学に進学。関西から東京に拠点を移し、新しい生活をスタートさせました。現在は重松直樹コーチのもとで技術を磨いています。
今大会を振り返り、課題が多く見つかったと言います。
―プログラム自体まだ調整中?
山隈「滑り込みがなかなか滑りきれなくて。部分、部分では滑り込めても、なかなか1曲通しては滑りこみができていなかったので。そこが結構、明確に出てしまった。演技の前半部分はまだ大丈夫だったんですけど、後半から体力的な限界があって、意識がもうろうとしながら帰ってきたので。1曲通しての滑り込みと体力がまだまだなので、そこは今からなおしていかないといけないなと思います」
―仕上がりが遅れた一番の理由は?
山隈「靴の部分だったり、体調不良だったり。言い訳になってしまうんですけど、新生活に慣れるまで時間がかかってしまったので、集中して打ち込もうと思っています。危機感をこの試合で持てたので、夏休みは滑り込んでいきたいです」
表彰式のあと、山隈選手とほんの少しだけ話す機会がありました。
―その髪型素敵ですよ。よく似合っています。
山隈「ありがとうございます。僕、実は天然パーマなんです。だから伸びるとくるくるとするんです」
―ショートで演じられた映画「君の名前で僕を呼んで」の主人公の少年役のティモシー・シャラメみたいですね。
山隈「ほんとですか? このままでいこうかな(笑)」
腰が低く、好青年を絵にかいたような山隈選手。
ファンから「新生活はどうですか?」と聞かれると、「主婦しています」と日々の生活の中で、きちんと家事をしていることも明かしてくれました。
7位の中野紘輔選手(福岡大学)は今シーズンで引退することを表明。フリーの「ポエタ」では壮大なイーグルと激しいステップでプログラムを盛り上げました。
10位の山田耕新選手(SMBC)のフリーは「ゴッドファーザー」。表情ひとつひとつで見せ場を作り、哀愁漂う男を演じました。
5位の木科雄登選手(金光学園)は転倒しましたが、4回転トゥループに挑戦しました。
競技結果
1位 友野一希(同志社大学) ポイント226.25(SP1位 FS1位)
2位 山本草太(中京大学) ポイント207.68(SP2位 FS2位)
3位 山隈太一朗 (明治大学) ポイント168.69(SP3位 FS5位)
4位 石塚玲雄(早稲田大学) ポイント161.75(SP9位 FS3位)
5位 木科雄登(金光学園) ポイント 159.70(SP4位 FS7位)
6位 時國隼輔(同志社大学) ポイント159.45(SP10位 FS4位)
<撮影・文 廉屋友美乃(かどやゆみの)>