8月23日~25日、ダイドードリンコ・アイスアリーナ(東京都西東京市東伏見)で開催された2019東京夏季フィギュアスケート競技大会の取材に行ってまいりました。
競技種目は男子女子の初級、1級、2級、6級クラスからノービスA、ノービスB、ジュニア、シニアまで。ノービスとシニアのアイスダンスやシンクロのジュベナイル(半分以上が13歳以下でノービスよりさらに下の年代)、ジュニアチームの演技も見ることができます。入場料は1000円(小学生は無料)。
会場では選手たちがアップしている様子や出場選手たちが仲間たちの応援をしている姿を見ることができます。
永井優香選手(早稲田大学)や佐藤伊吹選手(明治大学)、鎌田英嗣選手(明治大学)、石塚玲雄選手(早稲田大学)らの演技を間近で見ることができます。またジュニア、ノービスでは将来有望な選手をこの目で発掘できるので、スケートファンにはまさに”青田買い“ができる大会でもあります。
今回、ひときわ目を引いたのがノービスB男子で優勝した西武東伏見FSCの中田璃士(なかたりお)選手です。
UKロックの音楽にあわせて、衣装もユニオンジャック。いきなりトリプルトゥ―ループ+ダブルトゥループ+ダブルトゥループの3連続を決め、会場を沸かせます。
ダブルアクセルも安定感があり、高さ、スピードも文句のつけようがありません。78.61点の高得点をマーク。
点数が出ると会場からは「おー」と歓声があがり、「まるでジュニア、いやシニアのようなジャンプ」とファンから感想がもれるほどでした。
中田選手自身も「78点台はびっくりした」と予想以上の点数に驚いた様子。
「前回の飯塚杯で69.59点ともう少しで70点だったんですけど、ルッツとかで転倒してしまって。あれが悔しくて、あれ(転倒してしまったルッツ)をずっと練習していました」
ノービスB女子で優勝した島田麻央選手(明治神宮外苑FSC)。思いきりの良さと着氷後もスピードが落ちない流れのあるジャンプが持ち味。
冒頭からトリプルルッツ+ダブルトゥループ+ダブルループの三連続ジャンプを決め、得意のレイバックスピンではレベル4をゲット。武田奈也さん振り付けの「スワン・レイク」をみずみずしく軽やかに演じていました。点数は83.05点。
「普段よりあまりよくなかったので。いつもやっているときより良くなかったです。スピードとかジャンプの前にゆるめてしまったところです」と反省する点もあったという島田選手。「普段の練習からスピードを出して、思いっきりジャンプを飛んでいる」
見せ場はジャンプ以外にもスピン。レベル4をとったレイバックスピンについては、
「ビールマンスピンが得意なので、最後に入れているから見て欲しいです」
とにこやかに語っていました。
ジュニア男子は2度の骨折を克服して復活を遂げた堀義正選手(新渡戸文化中高SC)に注目です。 ショート、フリーともにトリプルアクセルを成功させました。
フリーではトリプルルッツで転倒、フリップ、ループもダブルとなるミス。とはいえ、トリプルアクセルは高さ、幅ともに素晴らしく、フリーの点数は85.08。ショートの57.23と合わせて、142.31点で優勝しました。
フリー後、ルッツで転倒したことについて、次のように振り返りました。
「ルッツこけたのが久しぶりで、予期せぬ失敗があったときに備えて、もうちょっと気持ちを整理させられるように練習を取り組まないといけないという明確な目標ができました」
ショートはの曲は映画「カイジ 人生逆転ゲーム」、フリーは「チャイルド・オブ・ナザレ」。
町田樹さんを尊敬しているスケーターとしてあげている堀選手です。
フリー前のウォーミングアップではこんなことを明かしてくれました。
「アップの時に自分のプログラムを踊らずに町田樹さんのプログラム『火の鳥』を踊っていました。『エデンの東』も好きなんですけど、『火の鳥』が大好きなんで。自分の試合前に踊っていました。体が温まるので」
ジュニア女子はTzuHan Ting選手(台湾)がショート2位から逆転優勝。フリーで決めたダブルアクセル+トリプルトゥループ+ダブルトゥループのほか、いずれのジャンプの質が高く、スピンもスピードがあります。演技をもっと見ていたいと思わせる魅力あふれる選手でした。
シニア女子は永井優香選手がショート1位で通過しましたが、フリーでジャンプが抜けてしまうミスが相次ぎ、2位に。
優勝は佐藤伊吹選手(明治大学)でした。いくつかのジャンプが回転不足をとられてしまいましたが、フリーの「アランフェス協奏曲」を情感たっぷりに演じました。
全体的に落ち着いた様子でしたが、6分間練習では思うようにジャンプが決まらず、気持ちに余裕がなかったとも明かしてくれました。
「6分間練習でルッツとかにミスがあって本番前、すごく緊張していたんですが、練習をちゃんとしてきたつもりなので、それが自信になったかなと思いました。最初の3-3を決め、安心できました」
普段の練習を思い浮かべ、気持ちを切り替えられたようです。
フリーの振り付けについてはこんな見どころがあると佐藤選手は言います。
「フラメンコっぽい動きが入っているから、大人っぽさが出せればいいなと思っています」
シニア男子は鎌田英嗣選手(明治大学)が制しました。
トリプルアクセルの転倒については、
「踏み切り損ねてどちらかといえばパンクになりそうなものを無理やり回してみたという感じだったので、危なかったというか、最悪だったという感じです」
と冷静に振り返ります。さらにフリーの出来については次のように分析しました。
「今日は自分としての出来はあまりよくなかったのですが、点数は思ったより出して頂きました。まだまだ伸びしろは、たくさんあると思うので、最低限、ジャンプのランクは抑えられたのかなという印象です。映像で見たらわかりませんが、いいジャンプは一個あったぐらいなので、自分ではもうちょっといいジャンプは飛べたよなっていう感じです」
まだ伸びしろがあると力強く語ってくれた鎌田選手。次なるステージに向け、さらなる進化に期待です。
アイスダンスシニアの枝村優花&嶋崎大暉組のリズムダンス『シカゴ』。大学生カップルが生み出す世界観はしっとりとあでやかで、まるでミュージカルを見ているよう。スケーティングにスピード感があり、エッジも深く、二人の息もぴったり。
振り付けは1980年アイスダンス五輪金メダリストのナタリア・リニチュクさん。2006年トリノオリンピックアイスダンス代表の渡辺心さんと木戸章之さんの元コーチでもあります。
ナタリアさんからも指導を受け、嶋崎選手いわく、「別次元の教え方」だそう。日本のアイスダンス競技においても今後が楽しみなカップルです。
ジュニアは12歳以上~19歳未満の選手たちで構成され、公式大会では1チーム16人の編成で出場できます。しかし現状ではその人数になかなか達することができず、神宮Ice Messengers Juniorも現在は14人編成。
夏季フィギュアでも愛らしく息の合った演技を見せてくれました。彼女たちが演じるのはアメリカのコメディ映画『ホーム・アローン』。コメディ映画の世界観は冒頭の振り付けから感じ取ることができます。メンバーの一人大橋きくの選手はそのこだわりについて次のように説明してくれました。
「最初は寝ていたところから起きて、伸びをしてまた寝る。だから寝ているポーズから伸びをするんです。次に最初のサークルでは泥棒が入ってきた怪しい雰囲気を、また(主人公の男の子。当時、10歳のマコーレー・カルキンが演じた)ケビンと泥棒が追いかけっこをして、捕まえられそうだけど、捕まえられないところみたいな場面を見て欲しいです。最後はお母さんと再会してやっと会えたみたいな安心感を表現しています」
もっとシンクロの競技人口が増え、たくさんのチームの演技が見られることを願うばかり。
ノービスの中から将来楽しみな選手を発掘するのも、ジュニアのはつらつとした演技を見るのも、シニアの洗練された表現力を見るのもまた楽し。
試合特有の緊張感がありながら、どこかお祭りのようなワクワク感もあり、フィギュアスケートの魅力を改めて肌で感じる3日間となりました。
後日、大会期間中に話を聞いた選手たちの声をお届けいたします。お楽しみに。