5種類の4回転ジャンプを持ち、フィギュアスケート世界選手権二連覇を果たしたアメリカのネイサン・チェン(20才)。ジャンプに安定感が増したチェンの強さを専門家が分析する。

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 ISU世界フィギュアスケート選手権2019年で優勝したアメリカのネイサン・チェン。彼の強みはなんといってもルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トーループと5種類の4回転を飛べることだ。世界選手権のフリーでは高難度の4回転ルッツにGOE4.76がつき、そのあとにもすべてのジャンプに加点がついた。

 チェンのジャンプに回転不足がつきにくいのは、ジャンプを飛ぶ際のしめかたにあると元フィギュアスケートコーチで、ブレード研磨の技術者でもある坂田清治さんは言う。

「私がネイサンに注目するようになったのは5~6年前からですが、その頃からジャンプの飛び方に特徴がありました。彼はジャンプを飛ぶときに右腕を斜め上に、左腕を右腕の下に横にして置いて、自分を抱きかかえるようにするんです。こうすると脇がよりしまって、回転もしやすくなるのです」

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 ジャンプのしめ方は選手それぞれやりやすい方法があるものの、チェンのような飛び方だと最後まで回り切ることができ、回転不足をとられなくなると坂田さんは指摘する。

「彼のコーチはラファエル・アルトゥニアン(61才)ですが、彼の教え子の中でもこの特徴的な飛び方をするのはネイサンだけです。もしかしたら、ネイサンが独自に考えているのかもしれません。まるで現役時代の野茂英雄さんのようなフォームなので、私はネイサンの飛び方を“トルネードジャンプ”と呼んでいます」

 ただし、この飛び方にも注意点がある。

「左右の腕の位置のバランスが崩れると、まわりすぎてしまい、ステップアウトになる可能性があります。特に左腕がしっかりと横になっていないとダメ。彼も私が見始めた当初は回転しすぎることも多かったのですが、年齢を重ねるにつれ、どんどん安定していきました。これは右腕が斜め上、左腕が横にしてしめることで体の軸のバランスがとれるようになり、回転がコントロールしやすくなり、そのことで4回転をマスターしたのだと思います」

60528266_2295496970558440_2721494641152098304_n かつては3回転アクセルを苦手としていたが、世界選手権では加点のとれるジャンプにまで仕上げてきている。今シーズンのルール改正後の世界最高得点323・42点をマークした背景にはメンタル面の強化とジャンプの飛び方をさらにブラッシュアップさせてきたと坂田さんは見ている。<了>